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受け取ったインフラを使い切る — ゼロ円主義

ゼロ円主義とは

ウェブサイトを公開する。APIを動かす。データベースを持つ。通知を送る。サーバーを立てる。

これらはかつて、月額数万円のサーバー代と専門知識が必要でした。今は違います。世界中のインフラ企業が、膨大なリソースを無償で開放しています。ほぼすべてをゼロ円で揃えられる時代になりました。

ゼロ円主義とは、受け取ったインフラを余すところなく使い切る設計思想です。「安く済ませる」ではなく、「届けることに集中するために、コストを構造から消す」という話です。


なぜ無料なのか

無料には必ず理由があります。ここでいう無料は、慈善ではありません。

Cloudflare は無料ユーザーを世界中に抱えることで、巨大なネットワークインフラを維持・改善するデータを得ています。無料ユーザーのトラフィックが、有料顧客のパフォーマンスを支える基盤になっています。

Tailscale は個人・小規模利用を無料にすることで、エンジニアコミュニティへの浸透を図っています。個人が使い始め、職場に持ち込み、企業契約につながる——それが設計意図です。

AWS の無料クレジットは、Bedrockへのモデル導入実績を積むために提供されています。使われることがAWSにとっての価値です。

つまり、無料で使うことは一方的な受益ではなく、双方向の関係です。使うことで、サービスに貢献しています。後ろめたさは不要です。


スタック全体図

カテゴリサービスコスト
ウェブサイトCloudflare Pages0円
APICloudflare Workers0円(10万req/日まで)
データベースCloudflare D10円(5GB・500万read/日まで)
セキュア外部公開Tailscale0円(100台まで)
決済Stripe0円(売上発生時のみ手数料3.6%)
バックアップUSBメモリ買い切りのみ
常時稼働サーバーミニPC電気代のみ(約500円/月)
モバイル通信povo(招待)0円(100GB/3日間)
モバイル電源INIU 45W モバイルバッテリー + USB-DC 12Vケーブル買い切りのみ
AIClaude on Bedrock従量課金のみ(無料クレジット付与あり)

完全無料・制限内で十分に動くのが、このスタックの特徴です。個人・小規模プロジェクトなら上限に達することはほとんどありません。


採用したものと外したもの

採用: Tailscale(Cloudflare Tunnelではなく)

ローカルで動くサービスを外部に公開する方法として、CloudflareにはTunnelという仕組みがあります。しかしこのスタックではTailscaleを選びました。

理由は所有権と経路の自由度です。Cloudflare TunnelはCloudflareの経路を通ります。Tailscaleは自分が制御するメッシュネットワーク上を通ります。どこで動かしても、誰の手を借りなくても、セキュアな公開ができます。

Tailscaleは「VPNで内側に閉じる」道具ではありません。「ローカルで動いているものをセキュアに外に開く」基盤として使います。

採用: ミニPC(Raspberry Piではなく)

Raspberry Piは優秀な検証機材です。しかし本番の常時稼働環境には向きません。

中華ミニPCは x86・大容量RAM・SSD・低消費電力を実現しています。新品で2〜3万円、中古なら1万円以下で手に入ります。これが現時点での最適解です。

採用: povo招待(固定回線の代替)

スポットイベントや民泊・集会所などで TokiNode を立ち上げるとき、固定回線は不要です。

povo の招待機能を使うと、新規アカウントに 100GB/3日間 のデータが付与されます。iPhoneにpovoのeSIMを入れてテザリングすれば、ミニPCがWiFiホットスポットとして機能します。

3日間のイベントなら100GBで十分。設営・撤収含めてコストゼロで通信インフラを確保できます。

月額プランに縛られず、必要なときだけ通信量を調達できる——これもゼロ円主義の一形態です。

#### コンセントなしで動かす

INIU 45W モバイルバッテリーUSB-DC 12Vケーブル(PDトリガー方式) を組み合わせると、ミニPCをコンセントなしで稼働できます。

povo の 100GB とこのバッテリーを組み合わせると、電源もネットも持ち込んだだけで TokiNode が立ち上がります。 民泊・イベント会場・車内・屋外ブース——コンセントの有無を問わず展開できます。

#### 必要なスマートフォン

povo は eSIM に対応しています。eSIM が使えるスマートフォンなら新旧問いません。

引き出しに眠っている古い iPhone や Android でも、eSIM 対応機種であれば TokiNode 専用のテザリング端末として再活用できます。新たに購入する必要はありません。

TokiNode スポット展開の最小構成:

機材備考
eSIM対応スマートフォン(新旧不問)povo eSIM でテザリング
ミニPC(BMAX B1 Plus 等)nodogsplash + Tailscale 稼働
INIU 45W モバイルバッテリーコンセントなし給電
USB-DC 12Vケーブル(PDトリガー方式)バッテリー → ミニPC

これだけで、どこでも持ち運べる WiFi 拠点が完成します。

外した: Cloudflare R2

ファイル・動画の大容量配信には R2(Cloudflareのオブジェクトストレージ)が有力です。転送費ゼロという特徴は強みです。しかし無料枠の境界線が読み取りにくく、気づかず課金が発生するリスクがあります。今のスタックでは採用していません。必要になったタイミングで無料範囲を確認してから追加してください。


設計の原則

1. ランニングコストゼロを前提に設計する 月額費用が発生する構成は、プロジェクトが止まったとき負債になります。無料枠で動くように設計すれば、放置しても費用は発生しません。

2. 所有権を手放さない 無料であっても、データとコードは自分が管理します。gitで手元に持ちます。クラウドはあくまで公開・配信の手段です。

3. 一つのサービスに依存しない Cloudflareが有料化しても、Tailscaleが終了しても、代替を差し込める構造にしておきます。ロックインを避けましょう。

4. シンプルを保つ 便利な機能を積み重ねません。今必要なものだけ使います。複雑さはコストです。


あなたの経済効果

「普通に払っていたら」いくらかかるかを比較します。

カテゴリ一般的な構成ゼロ円主義月次差額
AI利用claude.ai Max $200/月(Pro比最大20倍の使用量)Bedrock:実質¥0(無料クレジット内)¥30,000
ウェブホスティングNetlify/Vercel Pro ¥2,000〜Cloudflare Pages¥2,000
APIサーバーHeroku / Railway ¥1,500〜Workers(無料枠)¥1,500
データベースPlanetScale / Supabase ¥1,000〜D1(無料枠)またはミニPC¥1,000
常時稼働サーバーVPS ¥1,000〜3,000ミニPC(電気代のみ)¥800〜2,800
アプリ配布Apple Developer ¥1,250/月相当PWA(無料)¥1,250
バックアップDropbox ¥1,200〜USBメモリ(買い切り)¥1,200

AI利用が突出して大きい理由は、量だけでなく質が変わるからです。

claude.ai の Max プランは「Proの最大20倍の使用量」で $200/月。それでも Claude Code をがっつり使えば上限に達します。Bedrock は上限なしの従量課金で、無料クレジットの範囲内に収まることもあります(条件は時期により変わるため、AWS公式で確認してください)。

Maxプランと同等以上のことが、Bedrockでは実質¥0で動く。 これがこのスタック最大の経済効果です。

「使いすぎた」という感覚がなくなることで、AIへの問いかけ方そのものが変わります。

3年間の累計

一般的な構成ゼロ円主義
月額合計(AI込み)約¥37,000〜42,000電気代のみ ¥500前後
3年間合計約130〜150万円約5万円(ミニPC購入費含む)

差額は3年で70〜130万円。その大半はAI利用料です。

お金が浮くだけでなく、プロジェクトを止めても費用が発生しない構造になります。月額が積み上がる恐怖がなければ、試すことへの心理的コストも下がります。


このスタックで何ができるか

最短即日で、有償プロダクトを作って公開して提供できます。

朝にAWSアカウントを作り、昼にCloudflare PagesとWorkersをデプロイし、夕方にStripeの決済リンクを繋げれば、その日のうちにお金を受け取れるサービスが動いています。必要なのはアイデアとこのUSBだけです。

具体的にできること:

月額費用:ほぼゼロ。所有権:完全に自分。

これが、ゼロ円主義の目指す姿です。

このUSBを作った TokiStorage 自体が、このスタックで動いています。 tokistorage.pages.dev


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