ギフトエコノミーとゼロ円主義
石けんから始まった証明
2025年、私たちは先祖を探る旅の中で、マウイ島に本家の血筋のお墓があることを知りました。「それなら自分たちで守ろう」と家族で決め、墓参りのためにマウイ島へ渡りました。
この決断には、もうひとつの背景があります。2023年のラハイナ山火事。私は当時、浦安市の自治会長をしていました。浦安は2011年の東日本大震災で液状化被害を受けた地域です。その被災地に建てられた新築戸建てを購入し、居住しながら自治会長を経験しました。土地の記憶と、コミュニティの力と脆弱さを、住む場所から学んでいました。だからこそ、ラハイナの被災を「他人事」と思えなかった。被災地のコミュニティ再建を学びたいという気持ちが重なっていました。
石けんにたどり着いたのは、私自身の探求からでした。
きっかけは墓石の寿命への疑問です。石材は風化し、刻まれた名前はいつか消える。そこで「石英ガラスにレーザーでQRコードを刻めば、時を超えて記録を残せるのではないか」という発想に至りました。素材を変え、刻印技術を変え、あらゆる組み合わせを試しました。その探求の末に行き着いたのが、MPソープベースを使った石けん作りでした。誰でも身近な道具で始められ、安全に作れる。造形と刻印が一体で成立する。これしかないと確信しました。
マウイへ向かう際、「地域に何か贈りたい」という思いから、石けんを現地で作ることを決めました。MPソープベース、香料、着色素材だけ日本から持参し、プロパンストーブ、フライパン、モールドは現地で調達しました。マウイに着いてから作り、そのまま配りました。
マウイに着くと、私たちは宿泊施設に石けんを渡しました。住んでいる人たちに渡しました。ハロウィンのイベントで、5歳の娘と一緒に子どもたちに渡しました。見返りは求めませんでした。ただ渡しただけです。
すると、リゾートホテルの施設を使わせてもらえました。プール、シャワールーム、スペースを無償で提供してもらえました。言葉が通じない場面もありました。文化も違います。それでも「これはあなたたちへの贈り物です」という態度は伝わる。石けんひとつで、お金を介さない交換が成り立ちました。
これは理論ではありません。家族で体験した事実です。
日本に帰ってから、この体験をどう広げるかを考えました。石けんは渡せる数が限られる。でも知識は違う。WiFiは違う。目に見えないものこそ、もっと広く渡せる。そうして生まれたのが、このTOKINODEであり、あなたが今つながっているこのWiFiです。
ギフトエコノミーとは
ギフトエコノミーとは、対価を求めずに与え合うことで社会が回る仕組みです。
市場経済は「等価交換」が原則です。何かを受け取ったら、同等のものを返す。でもギフトエコノミーは違います。受け取ったら、別の誰かに渡す。直接返さなくていい。循環することに意味があります。
貨幣経済を否定しているわけではありません。私たちは状況に応じて両方を使います。ただ、ギフトエコノミーには貨幣では生まれない何かがある——それを石鹸一個で学びました。
私たちについて
佐藤家は25年以上、デジタルの世界でキャリアを積んできました。エンジニア、コンサルタント、デザイナー。その積み重ねがあるから、このTOKINODEを作れた。
2026年以降、日本とマウイ島を行き来しながら、ギフトエコノミーを家族のコアコンセプトとして実践しています。この記事群は、その実践のひとつです。知識を体系化して公開することが、私たちにとってのギフトです。
あなたは今、贈り物の中にいる
このWiFiは無料です。このドキュメントも無料です。この機器そのものが、手引き集を実践して動いている実例です。
なぜそんなことができるのか。
私たちも無料で受け取ったからです。
Cloudflare は、世界規模のネットワークインフラをタダで使わせてくれています。Tailscale は、安全なネットワークをタダで使わせてくれています。AWS は、最先端のAIをほぼタダで使わせてくれています。povo は、通信量をタダでくれます。
これらは慈善ではありません。それぞれのサービスにとって、広く使われることが価値になる。だから無料で提供している。それでも、受け取った側にとって「もらった」という事実は変わりません。
受け取る → 使う → 渡す
この三段階が意識されていれば、タダで使うことへの後ろめたさは消えます。渡すことまで含めて、はじめてサイクルが完成するからです。
あなたが無料でWiFiを受け取って、誰かに無料でWiFiを届ける。それが返し方です。
このWiFiにつながったあなたは、すでにギフトエコノミーの一部です。ここに書いてある知識を誰かに渡したとき、循環が一歩前に進みます。
ギフトエコノミーはいつでも始められる
押しつけるものではありません。でも、形は問いません。
石鹸でも、WiFiでも、知識でも、時間でも。誰かに何かを渡すとき、見返りを求めないという選択だけで、あなたはすでにギフトエコノミーを実践しています。
私たちはその実践を、どんな形であっても歓迎します。
SoulCarrier とこのWiFi
2023年、ラハイナの山火事で被災した浄土ミッションに、住職の計らいで家族とともに滞在させていただきました。隣接する墓地で「無名氏」と刻まれた墓石に出会い、SoulCarrier という活動が始まりました。
受け取った場所が、渡す場所になる。
このWiFiは、SoulCarrier の活動の場に置かれています。民泊、集会所、フィールドワークの拠点——人が集まる場所で、インターネットをギフトとして届けます。
贈り物は、受け取った場所から始まります。